日本人が「幸福」から連想するのは?――宗教やスピリチュアルは目立たず、「食」が浮かび上がった

3分でわかる!この記事の要点

結論
日本人2,507人の連想を分析すると、幸福は「食」「健康」「休息」「富」「喜び」「人間関係」「安心」「目標」の8つの要素にまとまりました。
理由
海外の調査で目立つ宗教やスピリチュアリティは目立たず、代わりに、これまでの研究ではほとんど挙がってこなかった「食」が現れたためです。女性は「人間関係」と「喜び」を、男性は「富」を挙げやすいという違いもありました。
アクション
「幸福」と「不幸」から思い浮かぶ言葉を5つずつ書き出し、自分にとっての幸福を言葉にしてみましょう。
目次[閉じる]

「幸福」と聞いて、何を思い浮かべますか

家族の顔、温かいごはん、ぐっすり眠れた朝。「幸福」と聞いて思い浮かべるものは、人によって違います。では、日本人全体で見ると、どんな言葉が、どんなふうにつながっているのでしょうか。

東京大学の瀧川裕貴氏らの研究チームは、この問いを「言葉の連想」から調べ、2026年9月26日、学術誌『Journal of Happiness Studies』に発表しました。

この研究は無作為に選んだ標本ではなく、わかるのは「どんな言葉を連想するか」までです。何が人を幸福にするかを示したものではありません。

先行研究:日本人の幸福観は、どこまでわかっていたか

日本人の幸福観を扱った研究としてよく知られているのが、内田由紀子氏と北山忍氏による2009年の研究です。日本と米国の大学生に幸福と不幸について記述してもらい、その内容を分類して、幸福と不幸の「意味の地図」を描きました。この研究では、幸福と不幸は完全な反対語としては捉えられていないことが示されています。

ただ、この研究の対象は大学生で、記述は人の手でカードに仕分けし、その結果から地図を描いていました。今回の研究は、20〜79歳という幅広い年代の2,507人を対象に、言葉どうしが「どうつながっているか」までを、研究者があらかじめ分類の枠を決めずにネットワークとして描いた点に新しさがあります。

どんな研究?

対象
20〜79歳の日本人2,507人(オンライン調査。性別と年代の人数がかたよらないように集めた)。有効な回答がなかった人(幸福で202人、不幸で215人)は、それぞれの分析から除外
方法
「幸福」と「不幸」からそれぞれ連想する言葉を5つ挙げ、さらにその5つの言葉それぞれから連想する言葉を3つずつ挙げてもらった。深く考えず思いつくまま答えるよう指示され、文ではなく単語で答えてもらった
分析
よく一緒に挙がる言葉どうしを線で結んでネットワークをつくり、言葉のまとまり(要素)を統計的に見つけた
掲載
Journal of Happiness Studies(2026年9月26日公開、オープンアクセス)

ネットワーク分析では、一つひとつの言葉の多さだけでなく、言葉と言葉の「近さ」がわかります。どの要素が中心にあり、どの要素とどの要素が近いかを見ることができます。

わかったこと

幸福は8つの要素にまとまった

浮かび上がった幸福の要素は、次の8つです。

「食」「健康」「休息」「富」「喜び」「人間関係」「安心」「目標」

このうち「喜び」が中心にあり、「人間関係」「休息」「安心」「富」と強くつながっていました。「富」と「安心」のつながりも強く、経済的なゆとりが安心感と結びついて思い浮かべられていることがうかがえます。要素どうしをつなぐ言葉としては「健康」「家族」「お金」が目立ち、とくに「家族」は「笑顔」と最も強くつながっていました。

宗教・スピリチュアリティは目立たなかった

インドや南アフリカ、ブラジルなどでの調査では、宗教やスピリチュアリティが幸福の目立つ要素として挙がります。ところが今回の日本人の回答では、それが目立つ要素として現れませんでした。

一方で、生きる意味や自己実現にあたる要素がなかったわけではありません。研究チームは、8つの要素のうち「目標」を、生きる目的ややりがいに向かう側面の幸福にあたるものと位置づけています。また、学歴が高い人ほど「目標」を多く挙げていました。日本人の幸福の地図では、宗教という形ではなく、「目標」という形で、生きる意味に近いものが表れていると読むこともできそうです。

代わりに「食」が現れた

代わりに現れたのが「食」です。食は、これまでの研究ではほとんど挙がってこなかった要素でした。しかも食は、「人間関係」よりも「喜び」と強く結びついていました。

研究チームは、日本を含む東アジアでは誰かと一緒に食事をする機会が比較的少ないことを挙げ、日本では食の幸福が「人とのつながり」よりも「個人の楽しみや満足」として表れているのではないか、と考察しています。

不幸は、幸福の単純な裏返しではなかった

不幸の側の要素は9つで、「孤独」「貧困」「別れ」「病気」「対立」「失敗」「不運」「ストレス」「災害」でした。

このうち「災害」は、幸福の8つの要素のどれかをひっくり返したものではなく、不幸の側にだけ現れた独立した要素です。研究チームは、自然災害が多い日本の状況を反映しているとみています。

また「貧困」は不幸の中心にあり、「ストレス」や「孤独」と近くつながっていました。幸福の側で「富」が「安心」と結びついていたのに対し、不幸の側で「貧困」が結びついていたのは、ストレスや孤独といった感情のほうでした。お金の多い少ないが、幸福と不幸で違う顔を見せているわけです。孤独と健康の関係については、「孤独だから不健康になる」だけではない――28年追跡調査で見えた、孤独と生活習慣の意外な関係でも紹介しています。

不幸の側で要素どうしをつなぐ言葉として目立ったのは、「病気」「死」と、「貧乏」「貧困」「お金」といった貧困に関する言葉でした。とくに「病気」と「死」のつながりは、要素をまたぐつながりの中で最も強いものでした。

2009年の内田・北山の研究と同じく、今回も幸福と不幸は反対語として一対一に並ぶものではありませんでした。

男女で、重みを置く要素が違った

幸福の8要素のそれぞれについて、男女どちらが多く言葉を挙げたかを調べたところ、違いが見られました。

  多く挙げた要素 目立った言葉
女性 幸福:「人間関係」「喜び」
不幸:「孤独」
「笑顔」「楽しい」「うれしい」
男性 幸福:「富」 「お金」「資産」「収入」
「ゲーム」「スポーツ」「遊び」

同じ「喜び」でも、中身が少し違いました。男性は「ゲーム」「スポーツ」「遊び」といった活動を、女性は「笑顔」「楽しい」「うれしい」といった気持ちそのものを挙げやすかったのです。

研究チームは、こうした違いを「女性は感情面や対人関係に敏感で、親しい人に支えを求めやすい」「男性は稼ぎ手としての社会的期待が経済面の重みにつながっている」という先行研究と一致する結果だと述べています。

これは統計的な傾向であって、個人がどちらに当てはまるかを決めるものではありません。

なお、興味深いことに、幸福の側の「富」には男女差があったのに、不幸の側の「貧困」には男女差がありませんでした。お金があることの重みは男女で違っても、お金がないことのつらさは男女で変わらない、と読むことができます。

学歴による違いもあり、学歴が高い人ほど「目標」の要素を多く挙げていました。

読むときの注意

  • この調査は無作為に選んだ標本ではありません。研究チームも、日本人全体に当てはめるには限界があると述べています
  • わかるのは「どんな言葉を連想するか」です。実際に何が人を幸福にするかを示した研究ではありません
  • 男女差や要素どうしの関係についての説明は、研究チーム自身が「仮説の段階」と位置づけています
  • 宗教やスピリチュアリティが「目立つ要素として現れなかった」ことは、日本人がそれを大切にしていない、という意味ではありません
  • 海外との比較は、別々に行われた調査との比較です。同じ方法・同じ時期に並べて調べたものではありません
  • 調査で使われた言葉は「幸福」と「不幸」です。「幸せ」と聞かれていたら、違う言葉が出ていた可能性があります

今日からできること(提案)

以下は、研究結果をもとにした日常での提案です。この方法そのものを試して効果を確かめた研究ではありません。

1. 「幸福」から思い浮かぶ言葉を5つ書き出す
紙やスマートフォンのメモに、思いつく順に書いてみます。研究で見つかった8つの要素のどれに近いかを見比べると、自分が何を大切にしているかが見えてきます。
2. 「不幸」から思い浮かぶ言葉も5つ書き出す
幸福の裏返しになっていない言葉があれば、それは自分にとって特に気になっている不安かもしれません。
3. 身近な人と、書き出した言葉を見せ合う
今回の研究では、男女で重みを置く要素が違いました。パートナーや家族と見せ合うと、「同じ幸福という言葉で、違うものを思い浮かべていた」ことに気づくかもしれません。
4. 食事を「喜び」として味わう時間をつくる
今回、食は「喜び」と強く結びついていました。1日1回、ながら食べをやめて、味や香りに意識を向けてみるのも一つの方法です。

まとめ

東京大学などの研究チームが20〜79歳の日本人2,507人の連想を分析したところ、幸福は「食」「健康」「休息」「富」「喜び」「人間関係」「安心」「目標」の8つの要素にまとまりました。海外で目立つ宗教やスピリチュアリティは目立たず、代わりに「食」が現れ、それは「人間関係」よりも「喜び」と強く結びついていました。不幸の側では「災害」が独立して現れ、「貧困」は「ストレス」や「孤独」と近くつながっていました。男女で見ると、女性は「人間関係」と「喜び」を、男性は「富」を挙げやすい傾向がありました。

無作為に選んだ標本ではないため、日本人全体の傾向とまでは言えません。それでも、自分にとっての幸福を言葉にしてみるきっかけになる研究です。

※本記事は情報提供を目的としており、医師の助言や治療に代わるものではありません。

出典

  • Lyu Z, Xie Z, Yasuda S, Ishibashi A, Saito T, Takikawa H. “Semantic Schema and Group Differences in Everyday Conceptions of Happiness and Unhappiness: An Investigation with a Word-association Network.” Journal of Happiness Studies 27, Article 128(2026年9月26日公開、オープンアクセス)DOI: 10.1007/s10902-026-01113-4
    https://doi.org/10.1007/s10902-026-01113-4
  • Uchida Y, Kitayama S. “Happiness and unhappiness in east and west: Themes and variations.” Emotion. 2009;9(4):441-456. DOI: 10.1037/a0015634
    https://doi.org/10.1037/a0015634

この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

関連記事 Relation Entry