3分でわかる!この記事の要点
結論
87試験の解析では、全粒穀物を1日60〜100g(乾燥重量)とる範囲で、リスク因子の改善が最も大きくなりました。
理由
体重、ウエスト周囲長、総コレステロール、IL-6の低下は幅は小さいものの、エビデンスの確実性が高い評価でした。
アクション
まずは1日1食から、白米や食パンを玄米、オートミール、全粒粉パンに置き換えてみましょう。
「体にいい」の次に来る、素朴な疑問
玄米、オートミール、全粒粉のパン。スーパーの棚でも、コンビニのおにぎりやパンの棚でも、「全粒」「雑穀」「ブラン」と書かれた商品をよく見かけるようになりました。
全粒穀物とは、精白した穀物と違って、外側のぬかや胚芽を残したままの穀物のことです。精白の工程で削り落とされる部分に、食物繊維やビタミンB群、マグネシウムなどが多く含まれています。
「ただ、いざ売り場に立つと、次の疑問が残ります。では、どのくらい食べればいいのか。毎食すべてを玄米にするべきなのか、それとも1日1食でいいのか。」
この「量」の問題を正面から扱った報告が、2026年9月15日、欧州心臓病学会(ESC)の学術誌『European Heart Journal』に公開されました。イラン・タブリーズ医科大学のHelda Tutunchi氏らのチームが、ランダム化比較試験87件(101の出版物)を集めて統合したものです。
まず、全粒穀物に含まれる栄養素と、その働き
ぬかと胚芽を残すことで、精白した穀物より多く残るのが次の成分です。
食物繊維:便通や腸内細菌の働きに関わり、食後の血糖の上がり方や血中コレステロールのコントロールにも関係しています。
ビタミンB1:糖質をエネルギーに変える過程で必要になるビタミンです。
マグネシウム:骨の材料になり、体内の多くの酵素の働きに関わるミネラルです。
鉄:赤血球のヘモグロビンをつくる材料になります。
※いずれも「全粒穀物だけにしか含まれない」という成分ではありません。ただ、同じ主食を選ぶときに、ぬかと胚芽が残っているかどうかで、摂れる量がはっきり変わります。
数字で見ると、どのくらい違うのか
文部科学省の食品成分データベース(日本食品標準成分表 八訂 増補2023年)で、可食部100gあたりの値を並べたものです。米とオートミールは炊く前・調理前の乾燥した状態、パンは製品の状態の値です。
| 食品(可食部100gあたり) | エネルギー | 食物繊維総量 | マグネシウム | ビタミンB1 | 鉄 |
|---|---|---|---|---|---|
| 玄米(水稲穀粒) | 346kcal | 3.0g | 110mg | 0.41mg | 2.1mg |
| 精白米(うるち米) | 342kcal | 0.5g | 23mg | 0.08mg | 0.8mg |
| オートミール | 350kcal | 9.4g | 100mg | 0.20mg | 3.9mg |
| 全粒粉パン | 251kcal | 4.5g | 51mg | 0.17mg | 1.3mg |
| 角形食パン(食パン) | 248kcal | 2.2g | 18mg | 0.07mg | 0.5mg |
玄米と精白米を比べると、エネルギーはほぼ同じ(346kcalと342kcal)なのに、食物繊維は6倍、マグネシウムは約4.8倍、ビタミンB1は約5倍の差があります。「カロリーは変わらないのに中身が変わる」というのが、主食を置き換えることの意味です。
※成分表で食パンの「食物繊維総量」を引くと4.2gという値が出てきますが、これは新しいAOAC.2011.25法という分析法で測った値です。全粒粉パンの4.5gは、従来のプロスキー変法による値です。分析法が違う数値を並べると、差がほとんどないように見えてしまいます。同じプロスキー変法でそろえると、食パンは2.2g、全粒粉パンは4.5gで、約2倍の差になります。上の表は、この点をそろえるためにプロスキー変法の値で統一しました。
研究トピック:87試験をまとめて「量」を調べた
全粒穀物をよく食べる人ほど心血管の病気が少ない、という関連は、これまで多くの観察研究で報告されてきました。今回の新しさは、そこではありません。
ランダム化比較試験(参加者をくじ引きのように振り分けて比べる方法)だけを87件集め、「どのくらいの量で、どのくらい変わるのか」という用量の問題に踏み込んだところにあります。
何を、どう調べたか
研究チームは87件の試験(101の出版物)を統合しました。参加者数はアウトカムごとに異なり、3,609〜5,932人の範囲です。たとえばLDLコレステロールの解析は54試験・5,932人、体重は41試験・4,390人、空腹時血糖は44試験・4,728人でした。試験はアジア、欧州、米国、カナダ、オーストラリア、ブラジルで行われたものです。
試験で使われた摂取量の幅は1日12〜213g(乾燥重量)でした。解析は「1日48g(乾燥重量)増えるごと」という単位で行われています。論文はこの48gを、生重量で約90g、約3食分に相当する量と説明しています。
わかったこと
最も改善の幅が大きかったのは、1日60〜100g(乾燥重量)の範囲でした。ESCのプレスリリースでは、1日30〜40g(乾燥重量)でも体重や血中脂質の改善がみられたが、最も大きかったのは60〜100gだったとしています。30〜40gが「ここから効き始める」という境目として示されたわけではありません。
60〜100gは4〜6食分にあたり、「オートミール1杯、全粒粉パンのサンドイッチ、玄米1膳」という組み合わせが、1日分の例として挙げられています。なお、この研究の「1食分」は乾燥重量で約16gという研究上の換算です(論文の48g=約3食分から逆算)。
1日48g増えるごとの変化
研究では、全粒穀物を1日48g多く食べると、平均でどれくらい変わるかを計算しています。試験ごとに食べた量は違うので、全体をならした目安の数字です。確実性が高い(high certainty)と評価されたのは、次の4つでした。
体重
−0.20kg
41試験
ウエスト周囲長
−0.22cm
27試験
総コレステロール
−0.10mmol/L
54試験
IL-6(炎症の指標)
−0.12pg/mL
12試験
中程度(moderate certainty)と評価されたのがこちらです。
LDLコレステロール
−0.07mmol/L
52試験
中性脂肪
−0.04mmol/L
52試験
空腹時血糖
−0.03mmol/L
44試験
収縮期血圧
−0.82mmHg
32試験
※ここでいう「確実性」は、効果の大きさではなく、その結果に対するエビデンスの確実性(GRADE評価)を示します。確実性が高い=改善の幅が大きい、という意味ではありません。
日本で使われる単位に換算すると、総コレステロールは約3.9mg/dL、LDLコレステロールは約2.7mg/dL、中性脂肪は約3.5mg/dLの低下にあたります(単位換算は本記事で行った概算です)。
数字を見て「思ったより小さい」と感じた方は、正しく読めています。研究を率いたTutunchi氏自身、全粒穀物の働きは「1つの大きな効果によるものではなく、いくつかのささやかな改善が重なって生じる」と述べています。体重が0.2kg、血圧が0.8mmHg。一つひとつは小さくても、体重・腹囲・脂質・血糖・血圧・炎症の指標が同じ方向にそろって動く、というのがこの解析の姿です。
「もっと食べるほど良い」ではなかった
用量と変化の関係は、まっすぐな直線ではありませんでした。多くの指標で変化が最も大きかったのは1日60〜100gの範囲で、一部の指標ではより高い摂取量(1日180〜220g)で最大だったと報告されています。
ただし著者らは、高い摂取量の範囲ではデータが乏しく、どこまで増やせばよいかという上限について確かな結論は出せない、と明記しています。試験の摂取量の幅が1日12〜213gであることを考えると、上のほうの範囲を支えている試験はごく少数です。「200g食べたほうがいい」と読むだけの根拠は、この解析からは得られません。
読むときの注意点
この報告には、はっきり書かれた限界があります。
集まった試験の期間は平均で約8週間と短く、長期的にどうなるかは分かりません。
測られたのはリスク因子(体重、腹囲、血中脂質、血糖、血圧、炎症の指標)です。心筋梗塞や脳卒中の発症そのものを調べたものではありません。
高い摂取量の範囲はデータが乏しく、用量の上限について確かな結論は出ていません。
参加者はアジア、欧州、米国、カナダ、オーストラリア、ブラジルの試験からで、日本人集団を対象にしたものではありません。
つまり「全粒穀物を食べれば心臓病を防げる」という話ではありません。確認されたのは、心血管の病気につながるとされるリスク因子が、複数まとまって小さく改善したということです。そこから発症が減るかどうかは、この研究の外側にある問いです。
今日から実践できること(提案)
以下は、この研究で直接検証された方法ではなく、示された量の目安を日本の食事に当てはめた提案です。
まずは1日1食から置き換える
この研究の「1食分」は乾燥重量で約16gという研究上の換算です。一方、日本の玄米ごはん1膳(約150g)は、炊飯前の玄米およそ65gに相当します(炊飯で重量が約2.3倍になるとした概算)。乾燥重量だけでみれば、1膳で研究の60〜100gに近い量になります。毎食すべてを全粒にしなくても、1食の置き換えから始められます。
朝食にオートミールを1杯
食物繊維は100gあたり9.4gで、今回並べた5品の中で最も多い値です。1杯30〜40gでも、食パン1枚とは差が出ます。
白米に混ぜるところから
玄米の食感が苦手なら、白米に1〜3割混ぜる形でも量は積み上がります。
パンは原材料の表示を見る
「全粒粉入り」と書かれていても、使われている割合は商品によって違います。原材料の並び順と栄養成分表示の食物繊維の量が手がかりになります。
甘い全粒粉製品には注意
全粒粉を使った菓子パンやシリアルには、砂糖や脂質が多いものもあります。栄養成分表示で確かめてください。
急に増やさない
食物繊維を一度に増やすと、お腹が張ったり、ガスが増えたりすることがあります。1食ずつ、数週間かけて増やすほうが続けやすいです。
食事指導を受けている方は相談を
玄米は精白米よりマグネシウムなどのミネラルを多く含みます(100gあたり110mgと23mg)。腎臓の病気でミネラルの制限がある方、糖質量の管理をしている方は、かかりつけ医や管理栄養士にご相談ください。
研究の詳細(Scientific Evidence)
まとめ
全粒穀物と心血管のリスクの関連は、以前から知られてきた領域です。今回の報告の価値は、その関連に「量」の目安を与えたところにあります。
ランダム化比較試験87件を統合した解析では、リスク因子の改善が最も大きかったのは1日60〜100g(乾燥重量、4〜6食分)の範囲でした。確実性が高いと評価されたのは体重、ウエスト周囲長、総コレステロール、IL-6の4つ。一つひとつは小さく、複数が重なって働くという説明がなされています。
一方で、試験の期間は平均約8週間と短く、測られたのはリスク因子であって病気の発症そのものではありません。高い摂取量の範囲はデータが乏しく、「もっと食べるほど良い」とは言えない状態です。
玄米ごはんなら1日1膳から。オートミール1杯と全粒粉パンのサンドイッチの組み合わせでも近い量になる計算です。全部を入れ替える必要はない、というのが今の研究から言える具体性です。
出典
Naghshi S, Kiani S, Ostadrahimi A, Jayedi A, Mobasseri M, Arefhosseini S, Tutunchi H, Aune D. “Whole-grain consumption and cardiometabolic risk: a meta-analysis of randomized trials.” European Heart Journal. 2026年9月15日公開. DOI: 10.1093/eurheartj/ehag519
欧州心臓病学会(ESC)プレスリリース「Four to six servings of wholegrain per day lowers risk factors for heart disease」
文部科学省 食品成分データベース「穀類/こめ/[水稲穀粒]/玄米」(食品番号01080)
文部科学省 食品成分データベース「穀類/こめ/[水稲穀粒]/精白米/うるち米」(食品番号01083)
文部科学省 食品成分データベース「穀類/えんばく/オートミール」(食品番号01004)
文部科学省 食品成分データベース「穀類/こむぎ/[パン類]/全粒粉パン」(食品番号01208)
文部科学省 食品成分データベース「穀類/こむぎ/[パン類]/角形食パン/食パン」(食品番号01026)
※内容は2026年9月時点の公開情報に基づきます
※本記事は情報提供を目的としており、医師の助言や治療に代わるものではありません。
