脳のための運動は「きつくなくていい」―2,724の試験、25万人超をまとめた研究から

3分でわかる!この記事の要点

結論
軽い運動を続けた人でも、認知機能・記憶・実行機能の向上が見られました
理由
2,724件の試験をまとめると、運動の強さや時間を問わず効果が確認されたためです
アクション
会話ができる速さの散歩を1日10分から始めて、まず1〜3か月続けてみましょう
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「きつい運動じゃないと意味がない」と思っていませんか

運動が脳に良い、という話はよく耳にします。でも気になるのは、「どんな運動を、どれくらいやればいいのか」ではないでしょうか。

息が上がるほど走らないとだめなのか。ジムに通わないといけないのか。そう考えて、最初の一歩が重くなっている人も多いはずです。

南オーストラリア大学の研究チームは、この疑問にこたえる大がかりな研究を行いました。運動と認知機能を調べた世界中の研究をまとめ、2025年にスポーツ医学の専門誌『British Journal of Sports Medicine』で報告しています。

結論は、うれしいものでした。軽い運動でも、脳は応えてくれるようです。

研究の内容:世界中の「まとめ研究」を、さらにまとめた

傘のように全体を覆う「アンブレラレビュー」

今回の研究は、アンブレラレビューと呼ばれる方法で行われました。

ひとつのテーマについて多くの試験が行われると、それらをまとめた研究(系統的レビュー)が作られます。アンブレラレビューは、その「まとめ研究」をさらに集めて、傘のように全体を見わたす方法です。

集められた規模は次のとおりです。

系統的レビュー
133件
ランダム化比較試験
2,724件
参加者
25万8,279人

ランダム化比較試験とは、参加者をくじ引きのように分けて、運動をするグループとしないグループを比べる方法です。効果を確かめる方法として、信頼性が高いとされています。

対象は、子どもから高齢者まで

参加者の年代は、子どもから高齢者までさまざまです。健康な人だけでなく、認知機能が低下している人や、病気のある人も含まれています。

運動の種類も幅広く、有酸素運動、筋トレ、ヨガ、太極拳、ダンス、体を動かすゲームなどが対象になりました。いずれも、4週間以上続けて行う運動です。

この研究が比べたもの

比べたのは、「運動を続けたグループ」と「運動をしなかったグループ(何もしない、順番待ち、ふだんどおりのケアなど)」です。

そのうえで、運動の種類・強さ・期間・回数によって効果が変わるかどうかも調べています。

わかったこと①:3つの力がそろって向上

運動を続けた人では、次の3つがいずれも向上していました。

  • 全般的な認知機能(考える力の全体)
  • 記憶
  • 実行機能(物事を計画し、切り替え、コントロールする力)

効果の大きさを表す数値(標準化平均差)は、全般的な認知機能で0.42、記憶で0.26、実行機能で0.24。研究チームの基準では、3つとも「中程度」にあたる大きさです。

この向上は、子どもから高齢者まで、どの年代でも見られました。

「実行機能」とは? 脳の司令塔のような力

3つのうち、聞きなれないのが「実行機能」かもしれません。

実行機能は、目標に向かって自分の考えや行動をコントロールする力です。脳の司令塔にあたる働きで、おもに前頭前野(おでこの奥にある部分)が担っています。土台になるのは、次の3つの力です。

抑える力
気が散るものや、つい出そうになる反応を抑える(例:スマホの通知を気にせず、作業を続ける)
頭の中に置いておく力(ワーキングメモリ)
情報を一時的に覚えたまま使う(例:聞いた電話番号を、そのまま入力する)
切り替える力
状況に合わせて、やり方や考え方を変える(例:予定が狂ったときに、段取りを組み直す)

この3つが組み合わさって、計画を立てる、優先順位をつける、段取りよく進める、といった毎日の行動を支えています。仕事にも、家事にも、勉強にも関わる力です。

わかったこと②:軽い運動でも、脳は応える

注目したいのは、運動の強さです。

効果は、低〜中強度の運動でおおむね大きめでした。さらに、運動の強さ、週あたりの回数、1回の長さによって、効果にはっきりした差は見られていません。つまり、きつい運動でなくても、短めの運動でも、向上が見られたということです。

研究チームは論文の結論で、「軽い強度の運動でも、認知機能・記憶・実行機能に良い影響がある」とまとめています。

筆頭著者のベン・シン博士も大学の発表のなかで、ヨガやウォーキングのような低強度の運動でも認知機能を高められること、年齢や体力を問わず取り組みやすいことを強調しています。

わかったこと③:1〜3か月でも変化が

続ける期間についても、前向きな結果が出ています。

全般的な認知機能への効果がいちばん大きかったのは、1〜3か月の取り組みでした。何年も続けてようやく、という話ではなく、比較的短い期間でも変化が見られたことになります。

シン博士は、新しい活動に挑戦することが、脳を活発に保つカギになる可能性があると述べています。

わかったこと④:体と頭を一緒に使う運動

運動の種類別では、次のような結果でした。

体を動かすゲーム(エクサゲーム)
全般的な認知機能と記憶で、もっとも大きな効果
ヨガや太極拳など、心と体をつなぐ運動
記憶への効果が目立つ

研究チームは、これらの運動の共通点に注目しています。動きの順番を覚える。呼吸と動きを合わせる。画面を見てすばやく判断する。体を動かしながら、頭も一緒に使っているのです。この「頭も使う」という要素が、結果に関わっている可能性があると考えられています。

わかったこと⑤:子ども・若者では、とくに大きな伸び

年代別に見ると、記憶と実行機能の伸びがもっとも大きかったのは、子どもと若者でした。また、ADHD(注意欠如・多動症)のある人では、実行機能の向上がほかのグループより大きくなっていました。

日本の研究でも:歩くほどの速さで、10分間

軽い運動と脳の関係は、日本でも調べられています。

筑波大学の研究チームは、健康な若い成人24人(平均22歳)に、歩く速さに近い「スローランニング」を10分間行ってもらいました。速さは時速約3〜6km。走っている本人が「とても楽」と感じるほどのペースです。

その結果、座って休んだ場合と比べて、実行機能を測る課題の成績が良くなり、気分もより快適になっていました。

使われたのは「ストループ課題」というテストです。色の名前を表す文字と、実際の文字の色が食い違っているときに、つられずに正しく判断できるかを見ます。先ほどの3つの力でいえば、「抑える力」を確かめる代表的なテストです。

実行機能を担う前頭前野の一部で、活動が高まっていたことも確認されています。この研究は2026年、脳科学の専門誌『Imaging Neuroscience』に掲載されました。

南オーストラリア大学の研究が見たのは「4週間以上続けた運動」、筑波大学の研究が見たのは「1回10分の運動の直後」。調べた相手も、測ったものも違います。それでも、「軽い運動でも脳は応える」という点では、同じ方向を向いています。

今日から実践できること:Zeverisからの提案

きつくなくていい。まずは、続けやすい運動をひとつ。

1. 「会話ができる速さ」の散歩を、1日10分から
息が上がらず、となりの人と話せるくらいのペースで十分です。通勤のひと駅分や、昼休みの散歩から始めてみましょう。
2. ヨガなど、呼吸と動きを合わせる運動を週に数回
動きの順番を覚えながら体を動かす運動は、体と頭を一緒に使えます。動画を見ながら、自宅で10分でもかまいません。
3. 体を動かすゲームを楽しむ
画面を見ながら体を動かすゲームは、今回の研究でとくに大きな効果が見られた運動です。運動が苦手な人や、家族と一緒に楽しみたい人に向いています。
4. 頑張りすぎず、まず1〜3か月続けてみる
研究では、1〜3か月の取り組みで変化が見られました。「一生続ける」と気負わず、最初の目標を3か月先に置いてみてください。
5. 慣れてきたら、新しい運動をひとつ足す
散歩に慣れたら、ヨガを足す。ヨガに慣れたら、ダンスを試す。新しい動きは、脳への新しい刺激になります。

きつめの運動が好きな方は、そのまま続けて大丈夫です。短時間の高強度運動については、下の関連記事で紹介しています。

あわせて読みたい

今回の記事と対になる、高強度運動の記事です。

中年期の運動と、認知機能の変化を追った調査です。

運動が「脳の掃除」を後押しする仕組みを整理しています。

筋トレと脳の関係を紹介しています。

まとめ

南オーストラリア大学の研究チームは、133件の系統的レビュー、2,724件のランダム化比較試験、25万8,279人のデータをまとめました。運動を続けた人では、全般的な認知機能、記憶、実行機能の3つがそろって向上しています。

効果は低〜中強度の運動でおおむね大きめで、軽い運動でも向上が見られました。1〜3か月という比較的短い期間でも、変化が確認されています。筑波大学の研究でも、歩く速さに近い10分間のスローランニングのあとに、実行機能と気分が高まっていました。

脳のための運動は、きつくなくていい。今日、会話ができる速さで10分歩くところから始めてみませんか。

※本記事は情報提供を目的としており、医師の助言や治療に代わるものではありません。

出典

  • Singh B, Bennett H, Miatke A, Dumuid D, Curtis R, Ferguson T, Brinsley J, Szeto K, Petersen JM, Gough C, Eglitis E, Simpson CEM, Ekegren CL, Smith AE, Erickson KI, Maher C. “Effectiveness of exercise for improving cognition, memory and executive function: a systematic umbrella review and meta-meta-analysis.” British Journal of Sports Medicine. 2025;59(12):866-876. DOI: 10.1136/bjsports-2024-108589
    https://bjsm.bmj.com/content/59/12/866
  • (大学の発表の紹介記事)Have a Go News “Exercise boosts brainpower at any age” 2025年3月25日
    https://www.haveagonews.com.au/health/exercise-boosts-brainpower-at-any-age/
  • 筑波大学 プレスリリース「歩行に近い速度で行う『スローランニング』でも10分で脳の前頭前野が活性化し、快適な気分と認知機能が向上する」2026年7月13日
    https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20260713140000.html
  • Damrongthai C, et al. “Slow running benefits: Boosts in mood and facilitation of prefrontal cortex function even at very light intensity.” Imaging Neuroscience. 2026. DOI: 10.1162/IMAG.a.1297
    https://doi.org/10.1162/IMAG.a.1297

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