
3分でわかる!この記事の要点
結論
アスパルテーム入りの水を7日間飲んだマウスは、脳卒中を再現した後の脳の壊死範囲が大きかった(対照群24.3% → 0.2%群で58.6%)。
理由
ミトコンドリアに活性酸素がたまり、細胞がストレスを生き延びる信号(ERK/CREB1)が抑えられていたため。
アクション
甘味料の是非より先に、血圧や喫煙など確立した脳卒中リスクの管理を優先する。
なお今回の研究は「摂ると脳卒中になりやすくなるか」を調べたものではない点に注意。
「ゼロカロリー」の甘味料と脳の関係
アスパルテームは、砂糖のおよそ200倍の甘さを持つ人工甘味料です。ゼロカロリー飲料、無糖ヨーグルト、ガム、卓上甘味料など、身近な多くの製品に使われています。各国の規制当局は、定められた1日摂取許容量の範囲内であれば健康な人の摂取に問題はないという立場をとっています。
一方で、神経系への影響については研究者のあいだで議論が続いてきました。今回発表されたのは、その議論に新しい角度から材料を加える研究です。テーマは「アスパルテームが脳卒中を起こすかどうか」ではなく、「脳卒中が起きたとき、脳のダメージの受け方が変わるかどうか」です。ここは読み違えやすいところなので、先に押さえておいてください。
研究は中国・復旦大学のYan Bai氏、Ji Feng氏らのチームによるもので、査読済みの国際学術誌『Ecotoxicology and Environmental Safety』に掲載されました。
何を、どうやって調べたのか
研究は動物実験と細胞実験の2本立てで行われました。
動物実験
雄マウス50匹が複数の群に分けられ、アスパルテームを溶かした飲み水(濃度0.1%または0.2%)を7日間与えられました。研究チームは、この濃度をヒトの1日摂取許容量の水準に近づける意図で選んだとしています。ただし飲み水の濃度がそのままヒトの摂取量に対応するわけではないため、「この量なら安全/危険」と読み替えられる数字ではありません。
7日後、マウスの頸動脈を2時間だけ塞いで脳への血流を止め、その後12時間血流を戻すという処置が行われました。これは虚血再灌流と呼ばれ、血管が詰まるタイプの脳卒中(脳梗塞)とその後の治療で起きる現象を実験的に再現する標準的な方法です。
細胞実験
生まれたばかりのマウスの脳から取り出した神経幹細胞をアスパルテームで48時間前処理し、その後に酸素とブドウ糖を絶つことで、脳卒中に近い条件を再現しました。
結果:壊死した範囲が2倍以上に
アスパルテームを与えなかった対照群では、壊死した脳組織が対象領域の24.3%でした。これに対し、0.2%のアスパルテーム水を飲んでいた群では58.6%まで広がっていました。
顕微鏡で見ても、アスパルテームを与えられたマウスでは大脳皮質と海馬で神経細胞の脱落が進み、細胞が壊れていく所見がより強く表れていました。
細胞実験でも方向は同じでした。酸素とブドウ糖を絶っただけの細胞に比べ、アスパルテームで前処理した細胞は生存率の低下が約25%大きくなりました。なお、同じ実験で試された他の甘味料(スクラロース、アセスルファムカリウム)では、同等の毒性作用は見られなかったと報告されています。
なぜそうなるのか:ミトコンドリアと生存シグナル
研究チームは、細胞の中で何が起きているのかも調べています。
活性酸素の蓄積と膜電位の喪失
アスパルテームにさらされた細胞では、エネルギーを作り出す小器官であるミトコンドリアの内部に活性酸素(酸化ストレスを引き起こす反応性の高い物質)が大量に蓄積し、ミトコンドリアの膜電位が失われていました。膜電位はミトコンドリアが正常に働くための電気的な条件で、これが失われるのは細胞のエネルギー工場が止まりかけているサインです。
ERK/CREB1経路の抑制
同時に、ERK/CREB1経路と呼ばれる一連の化学シグナルが抑えられていました。この経路は、細胞がストレスにさらされたときに生き延びるのを助ける仕組みです。
さらに研究チームがこの経路を活性化する化合物と、活性酸素を打ち消す化合物を投与したところ、細胞死と炎症が部分的に戻りました。つまり「アスパルテーム → 活性酸素とミトコンドリアの機能低下 → 生存シグナルの抑制 → ダメージ拡大」という流れが、実験的にある程度裏づけられた形です。
この研究の限界
研究チーム自身が挙げている限界があります。
アスパルテームを与えた期間は7日間だけで、多くの人が長年続けている日常的な摂取パターンを反映していない
雄マウスのみを使っており、雌でも同じ脆弱性が見られるかは不明
行動テストや認知機能のテストは行われておらず、細胞レベルのダメージが実際の機能障害につながるかは分かっていない
慢性的な低用量の摂取が生涯にわたって脳の回復力にどう影響するかは、依然として不明
加えて、これは動物と培養細胞の実験であり、ヒトで同じことが起きるとは限りません。研究チームも、人工甘味料が長期的に代謝経路をどう変えるのか、これらの仕組みがヒトの臨床の場面でも成り立つのかは今後の研究課題だとしています。
そして繰り返しになりますが、この研究は「アスパルテームを摂ると脳卒中になりやすいか」を調べたものではありません。調べられたのは、実験的に脳卒中を起こしたときのダメージの大きさです。
なお、アスパルテームについては2023年に国際がん研究機関(IARC)が「ヒトに対して発がん性がある可能性がある(グループ2B)」と分類していますが、これはがんに関する別の評価であり、今回の脳のダメージの研究とは対象も指標も異なります。同時にWHO/FAO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、1日摂取許容量を体重1kgあたり40mgとする従来の値を変更しないと結論しています。
今日から実践できること(提案)
ここから先は、今回の研究で直接検証された対策ではなく、結果をふまえた提案です。
脳卒中対策として確立しているものを優先する
血圧の管理、禁煙、血糖と脂質の管理、心房細動の治療といった対策は、人での研究で効果が確かめられています。甘味料の選択より、まずはこちらです。
「砂糖に戻せばいい」という結論にはならない
今回の研究は砂糖とアスパルテームを比べたものではありません。加糖飲料には別のリスクがあります。
甘味料の種類を替える前に、甘い飲み物そのものの頻度を見直す
WHOは2023年、体重管理や生活習慣病リスクの低減を目的とした非糖質甘味料の使用を推奨しないという条件付き勧告を出しています(根拠の確実性は低いとされ、すでに糖尿病がある方は対象外です)。
背景には、人工甘味料の摂取量が多い人ほど脳血管疾患が多かったという観察研究もありますが、こちらは因果関係を示すものではありません。いずれにせよWHOの主張は「砂糖入りに戻す」ことではなく、食事全体の甘さを減らす方向です。※なお今回のマウス実験とは別の話で、この実験から飲む量についての結論は出せません。
摂取量の目安を知っておく
米国FDAはアスパルテームの1日摂取許容量を体重1kgあたり50mg、JECFAは40mgとしています。FDAの基準では体重60kgの成人でおおむね卓上甘味料75包分に相当するとされており、通常の食生活でこの水準に達することはまれです。
フェニルケトン尿症(PKU)の方は避ける
アスパルテームはフェニルアラニンを含み、日本を含め各国で表示が義務づけられています。
気になる方は、医師や管理栄養士にご相談ください。
まとめ
復旦大学の研究チームが雄マウス50匹にアスパルテーム入りの飲み水(0.1%または0.2%)を7日間与えたうえで、頸動脈を2時間閉塞して12時間再灌流する形で脳梗塞を再現。壊死した脳組織の割合は対照群の24.3%に対し、0.2%群では58.6%に広がりました。
培養した神経幹細胞でも、酸素とブドウ糖を絶ったときの生存率の低下が約25%大きくなっています。背景には、ミトコンドリア内の活性酸素の蓄積と、細胞の生存を支えるERK/CREB1経路の抑制がありました。
ただし曝露はわずか7日間、雄マウスのみ、行動テストなし。そして何より、これは脳卒中の起こりやすさを調べた研究ではありません。ヒトに当てはまるかは、これからの検証を待つ段階です。
※本記事は情報提供を目的としており、医師の助言や治療に代わるものではありません。
出典
Ecotoxicology and Environmental Safety「Aspartame exacerbates cerebral ischemia–reperfusion injury via mitochondrial dysfunction and ERK/CREB1 pathway suppression」(Bai Y, Feng J, Wu XY, Yao ZS, Liu YT, Li YH, Lu GD, Xue K、DOI: 10.1016/j.ecoenv.2026.119938)
参考(摂取量の目安):U.S. Food and Drug Administration「Aspartame and Other Sweeteners in Food」
参考(IARC/JECFAの評価):World Health Organization「Aspartame hazard and risk assessment results released」(2023年7月14日)
参考(非糖質甘味料に関する勧告):World Health Organization「WHO advises not to use non-sugar sweeteners for weight control in newly released guideline」(2023年5月15日)
参考(観察研究):The BMJ「Artificial sweeteners and risk of cardiovascular diseases: results from the prospective NutriNet-Santé cohort」(Debras C ほか、2022年、10万3,388人、追跡期間の中央値9年。脳血管疾患のハザード比1.18[95%CI 1.06–1.31]、アスパルテーム1.17[1.03–1.33]。観察研究であり因果関係を示すものではない)
※内容は2026年9月時点の公開情報に基づきます
