
3分でわかる!この記事の要点
結論
果物と野菜をよく食べる人ほど、その後うつ病を発症するリスクが低い傾向が見られました。
理由
13の追跡研究385,449人の解析で、摂取が最も多い群はリスクが37%低い関連だったため。
アクション
今の食事に果物か野菜を「あと一皿」足すところから始めてみる。
ただし、これは観察研究であり因果関係は証明されていません。あくまで「関連」の話。
「食事とこころ」の関係を、38万人分のデータで検証
うつ病は、世界で障害の主要な原因のひとつとされています。だからこそ、生活習慣のように自分で変えられる要因に何か手がかりはないか、という研究が続けられてきました。
そうした流れの中で、イランの研究チームが、果物・野菜の摂取量とうつ病の発症リスクの関係を調べた研究を、査読済みの国際学術誌『Journal of Affective Disorders』に発表しました(2026年7月21日オンライン先行公開)。
これは新しく人を集めて行った実験ではなく、世界各地で行われてきた「前向きコホート研究」(健康な人を先に集めて、その後何年も追跡し、誰が病気になるかを見ていくタイプの研究)を集めて統合する、システマティックレビューとメタ解析という手法の研究です。集まったのは13のコホート研究、参加者は合計385,449人。追跡期間中に26,592人がうつ病を発症していました。
結果はこうです。果物と野菜を合わせた摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループと比べて、うつ病になるリスクが37%低いという関連が見られました(相対リスク0.63、95%信頼区間0.50〜0.80)。
何を、どうやって調べたのか
研究チームは、PubMed、Web of Science、Scopus、Embase、Google Scholarという5つの文献データベースを2025年11月まで検索し、条件に合う研究を集めました。研究の特徴、食事の調べ方、うつ病の判定方法、効果の推定値、調整された交絡要因といった情報は、2人の研究者が独立して抜き出しています。
統合にはランダム効果モデルが使われ、研究間のばらつき(異質性)はI²という指標で、エビデンスの確実性はGRADEという国際的な評価手法で判定されました。研究計画は事前にPROSPERO(CRD420261279998)に登録されています。
主な結果を整理すると
果物と野菜を合わせた摂取量が最も多い群は、最も少ない群に比べてうつ病リスクが37%低い関連(相対リスク0.63、95%信頼区間0.50〜0.80)
用量反応の解析では、1日あたりの摂取量が200g増えるごとに、リスクが16%低い関連(相対リスク0.84、95%信頼区間0.74〜0.94)
果物だけ、野菜だけで分けて解析すると、それぞれ16%、12%リスクが低い関連
野菜については、摂取量とリスクの関係が一直線ではない(非線形の)用量反応パターンが見られた
「野菜が非線形」というのは、少ない人が少し増やしたときの変化と、もともと多い人がさらに増やしたときの変化が同じではない、という意味です。増やせば増やすほど効果が比例して大きくなる、という単純な関係ではありませんでした。
なぜ関連が見られるのか——想定されているメカニズム(仮説)
今回のメタ解析が調べたのは、あくまで摂取量と発症リスクの統計的な関連です。「なぜそうなるのか」という仕組みまで測ったわけではありません。ただ論文では、先行研究をもとに次のような経路が考えられると整理されています。いずれも「こう説明できるかもしれない」という仮説であって、今回の研究で確かめられた仕組みではない点にご注意ください。
酸化ストレスへの対抗
果物や野菜は、ビタミンCや葉酸、カロテノイド、フラボノイド、ポリフェノール、食物繊維といった生物活性のある栄養素を含みます。これらが、うつ病の病態生理の中心とされる酸化ストレス(体内で発生する有害な反応が処理しきれない状態)に対抗する可能性(Berk et al., 2013)。
慢性炎症の軽減
IL-6やCRPといった炎症の指標を下げることで、慢性的な炎症をやわらげる可能性(Marx et al., 2021)。
腸脳軸への働きかけ
腸内細菌叢の調節やセロトニンの調節を通じて、腸と脳のあいだの情報のやりとり(腸脳軸)を強める可能性(Patil et al., 2025)。
これらはいずれも、今回統合された13件の研究が直接測定した項目ではありません。「関連が見られた理由」を説明しうる候補として挙げられているもので、この経路が実際に働いていることが確認されたわけではありません。
この結果をどう受け止めるか
観察研究であることを踏まえて結果は慎重に解釈すべきであり、調整しきれなかった交絡要因(残差交絡)が観察された関連の一部を説明している可能性があります。
果物や野菜をよく食べる人は、運動習慣や睡眠、経済的な余裕、人とのつながりなど、ほかの面でも条件が違うことが多く、その影響を統計的に完全に取り除くことはできません。
また、これは「果物・野菜を食べればうつ病が治る」ことを示した研究ではありません。調べているのは、健康な人がその後うつ病を発症するかどうか(発症リスク)であって、すでに症状がある人の治療効果ではありません。
「37%」と「16%」という2つの数字も、意味が違います。
37%は「最も多い群と最も少ない群の比較」で、その中身(実際に何グラム食べていたか)は研究ごとに異なります。16%は「1日200g増えるごと」という用量反応の解析から出た数字です。そして果物単独の「16%」は、これらとはまた別の、果物だけを取り出した解析の結果です。同じ数字が並びますが、比べているものが違う点にご注意ください。
それでも、13の独立した追跡研究、385,449人という規模で一貫した方向の関連が見られたことは、食事とこころの健康を考えるうえで意味のある材料です。研究チームは、食事に関する助言はうつ病の確立された治療を「補うもの」であって、置き換えるものではない、という立場を示しています。
参考:果物・野菜の摂取目安
今回の研究は「1日何グラム食べるべきか」を決めたものではありませんが、公的なガイドラインとしては次のような目安が示されています。
WHO(世界保健機関):10歳以上は1日400g以上の果物・野菜を目標に
日本(農林水産省):野菜は1日350g以上が目標。一方、国民1人当たりの1日平均摂取量は256.0g
つまり日本人の平均は、野菜だけで見ても目標に約94g足りない計算になります。この「足りない分」は、今回の研究で用量反応が示された「200g」という単位ともそれほど遠くない量です。ただしこれは目安どうしを並べただけで、研究がこの差を検証したわけではありません。
今日から実践できる対策(提案)
ここから先は、今回の研究で直接検証された方法ではなく、結果をふまえた提案です。「これをやればうつ病を防げる」という意味ではない点をご承知おきください。
あと一皿を足す:今の食事を変えるのではなく、味噌汁に野菜を足す、小鉢をひとつ加える、といった「追加」から始めると続けやすくなります。
朝の果物を定番にする:バナナ1本、みかん2個、りんご半分など、包丁を使わずに済むものだと習慣になりやすいです。
冷凍・カット野菜を活用する:冷凍ブロッコリーやミックスベジタブル、カット野菜は、下ごしらえの手間がないぶん「面倒だからやめた」を減らせます。
種類を欲張らない:野菜の用量反応は非線形でした。まずは1種類を確実に増やすほうが、あれもこれもと考えて挫折するより現実的です。
なお、気分の落ち込みが2週間以上続いている、眠れない、食欲がない、これまで楽しめたことが楽しめない、といった状態が続く場合は、食事の工夫よりも先に医療機関にご相談ください。食事は治療の代わりにはなりません。
まとめ
イランの研究チームによる13コホート研究・385,449人のメタ解析で、果物と野菜の摂取量が最も多い群は最も少ない群に比べ、うつ病の発症リスクが37%低い関連が見られました。1日200gの増加ごとに16%低い関連も示されています。
ただし含まれているのはすべて観察研究で、因果関係は証明されていません。研究チーム自身、残差交絡が関連の一部を説明している可能性を認めており、食事の助言は確立された治療を補うものだと述べています。
それでも、「あと一皿」という小さな追加は、こころと体の両方にとって、試してみる価値のある選択肢のひとつと言えそうです。
※本記事は情報提供を目的としており、医師の助言や治療に代わるものではありません。
出典
Journal of Affective Disorders「Association between fruit and vegetable intake and risk of depression: A systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies」(Zamanian N, Torabinasab K, Moradi Baniasadi M, Kavyani Z, Amiri SM, Sadeghi Majd S, Mohajerani A, Talebi S、2026年12月1日号 414:122291、2026年7月21日オンライン先行公開、DOI: 10.1016/j.jad.2026.122291)
PubMed(原著情報)
参考(摂取目安について):WHO「Healthy diet」ファクトシート
参考(摂取目安について):農林水産省「野菜・果物をとろう!」
参考(メカニズムの仮説):Berk M, et al.「So depression is an inflammatory disease, but where does the inflammation come from?」BMC Medicine, 2013
参考(メカニズムの仮説):Marx W, et al.「Diet and depression: exploring the biological mechanisms of action」Molecular Psychiatry, 2021
※内容は2026年9月時点の公開情報に基づきます
