腸と脳のつながりを「ヒト」で調査――英サリー大学など、腸内細菌と脳内GABA・グルタミン酸の関連を報告

3分でわかる!この記事の要点

結論

腸内細菌が神経活性物質をつくる力が、脳内のGABAとグルタミン酸の濃度と関連していた。

 

理由

英サリー大学が若年女性の脳をMRSで測定し、便のメタゲノム解析と照合して確認した。

 

アクション

因果関係はまだ未証明。食物繊維を含む食事など、腸内環境の基本を整えることから。

腸と脳のつながりを、ヒトの脳の中で確かめた研究

「腸内環境が心の状態に関わっている」――マウスなどの動物実験では、この関係がくり返し示されてきました。ただ、ヒトの脳の中で実際に何が起きているのかを直接測った研究は、限られていました。

英サリー大学(University of Surrey)の研究チームは、17〜25歳の健康な若年女性を対象に、脳内のGABA(神経の興奮を抑える物質)とグルタミン酸(神経の興奮を高める物質)の濃度を、MRS(磁気共鳴分光法)という手法で直接測定しました。同時に便のサンプルをショットガンメタゲノム解析にかけ、腸内細菌がどんな神経活性物質をつくる(あるいは分解する)遺伝子を持っているかを調べ、両者を照合しています。

この研究は学術誌『Molecular Psychiatry』に2026年8月25日付でオンライン公開され、サリー大学は2026年9月1日にプレスリリースを出しました。

研究の中心となったキャスリン・コーエン・カドシュ(Kathrin Cohen Kadosh)教授は、「マイクロバイオームが持つ神経活性の潜在能力は、脳の特定の領域の化学的なバランスと関係している。脳の領域ごとに、異なる関係が見られた」と述べています。

何を、どうやって調べたのか

対象となったのは、17〜25歳の健康な若年女性83名から集めたベースラインデータです。臨床レベルの不安症、発達障害、消化器の疾患がある人、MRIを受けられない人は除外されています。このうち腸内細菌のメタゲノム解析ができたのは61名、脳内物質のMRS測定は背外側前頭前野で76名、前帯状皮質で74名、下後頭回で72名という内訳でした。

 

脳側:測定対象の3つの領域

背外側前頭前野(dlPFC)

思考のコントロールや感情の調節に関わる

前帯状皮質(ACC)

注意、認知的なコントロール、感情の調節に関わる

下後頭回(IOG)

視覚情報の処理に関わる

 

腸側:メタゲノム解析で調べたもの

腸側では、GABA、グルタミン酸、短鎖脂肪酸(プロピオン酸など)、p-クレゾール、イノシトールといった物質の合成・分解に関わる細菌の経路を解析し、腸脳軸に関わる23の機能単位(gut-brain modules)として整理しています。

結果:関連は「脳の部位ごとに違っていた」

もっとも大きな発見は、腸内細菌との関連が脳の領域ごとに異なっていたことです。

 

下後頭回(視覚処理)

細菌のグルタミン酸分解経路とイノシトール合成経路が、この領域の興奮と抑制のバランス(E/Iバランス)と関連していた。

 

前帯状皮質

細菌のグルタミン酸経路、プロピオン酸経路と関連が見られた。

 

背外側前頭前野

細菌のGABA産生経路と関連が見られた。

研究に加わったニコラ・ジョンストン(Nicola Johnstone)博士は、「脳領域ごとに関連が違っていたことは驚きだった。下後頭回が予想以上に目立っていたからだ」と述べています。視覚を処理する領域が最も強く出るというのは、腸と脳のつながりが「感情の領域だけの話ではない」ことを示唆する結果でした。

 

さらに探索的な解析:心理面との関連

細菌のGABA分解経路が低いほど、特性不安(もともとの不安の強さ)と社交不安が低いという関連

トリプトファン代謝に関わる経路と、抑うつ症状および社交不安との関連

プロピオン酸の合成経路が高いほど、睡眠の質が低いという関連

コーエン・カドシュ教授は、この結果全体について「腸脳軸は、脳全体に一様に働く単一の経路ではない」と表現しています。

押さえておきたい3つの限界

この研究は新しい一歩ですが、読み取れる範囲には明確な限界があります。研究チーム自身が論文の中で挙げているものです。

1

因果関係は言えない

横断研究であり、同じ時点のデータを比べたもので、腸内細菌が脳に影響したのか、脳の状態が腸内細菌に影響したのか、あるいは第三の要因が両方に影響しているのかは、この研究では区別できません。

2

測ったのは「遺伝的な可能性」

メタゲノム解析でわかるのは、腸内細菌がその物質をつくる遺伝子を持っているかどうかであって、実際にどれだけつくられ、脳まで届いたかではありません。

3

心理面との関連は「探索的解析」

心理面との関連は「探索的解析」として位置づけられており、確定した知見ではない点にも注意が必要です。

今日から実践できる対策(いずれも提案です)

まず前提として、この研究は「腸内環境を整えれば不安が減る」「睡眠が良くなる」ということを検証したものではありません。

以下は、今回の研究で直接効果が確かめられた対策ではなく、腸内環境を保つうえで一般的に良いとされている習慣を提案として紹介するものです。

 

食物繊維を幅広く摂る

野菜、海藻、きのこ、豆類、全粒穀物など。短鎖脂肪酸をつくる腸内細菌の材料になるとされています。

 

発酵食品を食卓に

納豆、味噌、ヨーグルト、ぬか漬けなど、日本の食事になじみのあるものから。

 

食材の種類を偏らせない

特定の食品やサプリメントに頼るより、多様な食材を摂ることが腸内細菌の多様性を保つうえで一般的に良いとされています。

 

睡眠のリズムを整える

今回の研究では睡眠の質との関連も見られましたが、方向はわかっていません。睡眠は睡眠として、独立して大切にする価値があります。

 

Newsweekの取材に対し、研究チームは「今回の研究で脳の化学的性質と関連があると判明した短鎖脂肪酸を生成する細菌の餌となる食物繊維や栄養素を豊富に含むバランスの取れた食事を維持することが、脳の健康を保つための最良の方法であることに変わりはない」と述べています。

まとめ

 

英サリー大学の研究チームが、17〜25歳の健康な若年女性を対象に、脳内のGABAとグルタミン酸をMRSで直接測定し、便のメタゲノム解析(61名)と照合しました。

 

その結果、腸内細菌が持つ神経活性物質をつくる・分解する能力と、脳内物質の濃度との間に、脳の領域ごとに異なる関連があることがわかりました。

 

下後頭回、前帯状皮質、背外側前頭前野で、関わる経路がそれぞれ違っていたのです。

 

「腸と脳はつながっている」という考え方自体は新しいものではありません。この研究の価値は、それをヒトの脳内物質のレベルで体系的に確かめ、しかも「一様なつながりではない」という解像度を加えた点にあります。

一方で、示されたのは関連であって因果ではなく、測定されたのは細菌の遺伝的な可能性にとどまります。腸活が心の状態を改善すると結論づけられる段階ではない――そのうえで、腸と脳の関係を理解する手がかりが、また一つ増えました。

 

出典・参考文献

Johnstone, N., Cohen Kadosh, K. et al.「Empirical evidence for gut microbial influence on human brain neurochemistry via the gut–brain axis」Molecular Psychiatry(2026年8月25日オンライン公開、DOI: 10.1038/s41380-026-03813-y)

University of Surrey「Gut bacteria linked to key brain chemicals in first-of-its-kind human study」(2026年9月1日)

News-Medical.net「Study links human gut bacteria to levels of key chemicals in the brain」(2026年9月1日)

Newsweek「Gut Bacteria May Affect Brain Chemistry, First Human Study Finds」

※内容は2026年9月時点の公開情報に基づきます

※本記事は情報提供を目的としており、医師の助言や治療に代わるものではありません。

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