「一緒にいる時間」は長いほどいいわけではない――南極10カ月の観察研究が示した人間関係の逆説

3分でわかる!この記事の要点

結論

同じ空間で過ごす時間が長いほど、対立や不信感が強まる傾向が見られた。

理由

逃げ場のない環境で近すぎる距離が続くと、摩擦が生まれやすい可能性がある。

アクション

意図的に一人や少人数で過ごす時間を確保することが、関係維持に役立つかもしれない。

南極の研究が教えてくれること

南極コンコルディア基地で10ヶ月間の越冬生活を送った12人の隊員に着目した研究があります。

チューリッヒ大学とヴュルツブルク大学病院を中心とする国際研究チームが、隊員全員にウェアラブル型のセンサーを装着してもらい、誰が、いつ、どれくらいの時間、他の隊員と近くにいたかを自動的に記録しました。

その研究結果が2026年5月26日、学術誌PNASに掲載されました。

結果は少し意外なものでした。「一緒にいる時間が長い人ほど、仲が深まる」というよりも、むしろ接触時間が長い隊員ほど、対立や不信感が強い傾向があり、周囲から見た仕事ぶりの評価も低い傾向が見られました。

何をどうやって調べたのか

研究チームは、隊員全員にセンサーを常時身につけてもらい、誰と誰がどれくらいの時間近くにいたかを客観的なデータとして記録しました。あわせて、複数のタイミングでアンケートを行い、対立の頻度や周囲への不信感、チームの一体感、仕事のパフォーマンスについての受け止め方も尋ねています。

 

調査結果の要点

その結果、他の隊員と過ごす時間が長い人ほど、対立を感じやすく、不信感も強まり、周囲から見た仕事のパフォーマンスも下がる傾向にあることがわかりました。

また、時間が経つにつれて、隊員たちは母語や国籍が共通する相手と過ごす時間が増え、チーム内の接触が小さなグループに偏っていく様子も見られました。

 

【相関と因果の区別にご留意ください】

これはあくまで「一緒にいた時間の長さ」と「対立・不信感・評価」の間に関連が見られたという相関関係を示すデータであり、どちらが原因でどちらが結果かをこの研究だけで確定することはできません。

研究チーム自身も、例えば「もともと孤独を感じやすい人が、より多くの接触を求めた結果、かえって満たされない思いを募らせた」といった可能性を挙げており、因果関係については慎重な立場をとっています。

 

研究の応用先

研究チームは、この知見が潜水艦や洋上プラットフォーム、遠隔地の研究・軍事基地など、外に出られない極限環境でのチーム運営に役立つ可能性があるとしています。

 

オフィスでも同じ現象が?

似た現象は、一般的なオフィスでも報告されています。2018年の研究では、オープンオフィスへの移行後、対面でのやり取りが約70%減少する一方、メールでのやり取りが増加しました。物理的に顔を合わせやすくすることが、必ずしも対面コミュニケーションの増加につながるわけではないことを示す結果です。

 

【2つの研究を比較する際の注意】

南極の研究とオフィスの研究は、対象者(閉鎖環境の越冬隊員か、一般企業のオフィスワーカーか)も、測定している指標(対立・不信感・パフォーマンス評価か、コミュニケーション手段の変化か)も異なります。

そのため、この2つの研究から「一緒にいすぎるのは常によくない」という一つの結論を安易に導くことはできませんが、どちらの研究も「物理的な距離の近さや接触の多さが、そのまま良い人間関係やコミュニケーションの活発化につながるわけではない」という点で、示唆に富む結果と言えそうです。

今日から実践できる対策(提案)

ここから先は、今回ご紹介した研究で直接検証されたわけではなく、研究結果をふまえた提案です。

①

意識的に一人の時間を確保する

忙しい毎日の中でも、短時間でよいので誰にも気を遣わずに過ごせる時間を作ってみる。

②

顔を合わせる相手を固定しすぎない

いつも同じ相手とだけ過ごすのではなく、意識的にいろいろな人と少しずつ関わる機会を作ってみる。

③

「常に一緒」より「必要なときに顔を合わせる」を意識する

四六時中同じ空間にいることを目指すより、要件のあるときにきちんと顔を合わせる方が、かえって関係が保ちやすい可能性がある。

④

閉鎖的な環境で過ごすときは、意図的に離れる時間をスケジュールに組み込む

出張、共同生活、長期プロジェクトのチームなど、メンバー同士が長時間一緒に過ごさざるを得ない状況では、あらかじめ「一人になれる時間」を確保しておく。

まとめ

 

南極という極限環境での10ヶ月にわたる観察研究から、「一緒にいる時間の長さ」が必ずしも良好な人間関係につながるわけではなく、むしろ接触時間が長い人ほど、対立や不信感が強い傾向が見られました。

 

一般的なオフィスを対象にした別の研究でも、物理的に顔を合わせやすくしただけでは、対面でのコミュニケーションはかえって減るという結果が出ています。

 

どちらの研究も対象や指標が異なり、因果関係を断定するものではありませんが、「とにかく一緒にいる時間を増やせばよい」という発想を見直すきっかけにはなりそうです。

人間関係において「適切な距離感」を保つ意識が、かえって関係を長続きさせる鍵になるかもしれません。

 

出典・参考文献

University of Zurich / University Hospital Würzburg「Social interactions in isolated, confined, and extreme environments: A study of Antarctic winter teams using wearable sensors」PNAS誌(2026年5月26日発表)

Bernstein, E. & Turban, S.「The impact of the ‘open’ workspace on human collaboration」Harvard大学(2018年)

※本記事は情報提供を目的としており、医師の助言や治療に代わるものではありません。
※効果には個人差があります。

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