理想の感情バランスは「ポジティブ最大化」ではない?――638人の調査が示した「一致」という視点

3分でわかる!この記事の要点

結論

人が理想とするのはポジティブ感情100%ではなく、ネガティブ感情も1割程度含んだバランスだった。

理由

米国と国際サンプル計638人の調査で、理想と現実が一致した人の人生満足度が最も高かったため。

アクション

感情を「増やす/消す」ではなく、自分の理想とのズレに目を向けてみる。

「ネガティブな感情はゼロがいい」――本当にそう思っていますか?

私たちはつい、「楽しい気持ちはできるだけ多く、つらい気持ちはできるだけ少なく」が理想だと考えがちです。

ところが、ノルウェー・オスロ大学のJinrui Liu氏らの研究チームが学術誌『Journal of Happiness Studies』(2026年6月、オンライン公開は2026年4月28日)に発表した研究で参加者が「理想」として答えた感情のバランスは、そうした「ポジティブ最大化」ではありませんでした。

この研究のタイトルは「Positively Negative(ポジティブにネガティブ)」。査読を経て掲載されたオリジナル論文で、オープンアクセスとして公開されています。

研究チームが注目したのは、「感情アライメント」という考え方です。これは、実際に経験している感情と、自分が理想とする感情のレベルが、どれくらい一致しているかを表すものです。ポジティブ感情の量そのものではなく、理想とのズレの大きさに目を向ける、という発想の転換になります。

研究1: 人はどんな感情バランスを理想としているのか

まず研究チームは、米国在住の352人(19〜76歳、平均41.29歳)を対象に、3つの異なる方法で「理想の感情」を測定しました。

1

強制選択の課題

ポジティブ感情100%(あるいはネガティブ感情0%)という「最大限の」選択肢と、ポジティブ感情99%(あるいはネガティブ感情1%)というわずかに余地を残した選択肢を比べてもらいました。

結果: 極端な選択肢よりも、わずかに余地を残した選択肢のほうが選ばれやすいというものでした。

2

1日の時間配分課題

1日の時間をポジティブ感情・ネガティブ感情・どちらでもない中立的な時間に、合計100%で配分してもらう課題です。

結果: 平均するとポジティブ感情66.78%、ネガティブ感情13.36%、中立的な時間19.86%という配分になりました。ポジティブ感情だけを理想とした人はわずか3.5%、ネガティブ感情をまったく経験したくないとした人も12.5%にとどまっています。

3

スライダーでの評価

0〜10のスライダーで具体的な感情(幸福感・喜び・穏やかさ/怒り・悲しみ・恐れ)の理想と現実を答えてもらうものでした。

結果: 理想のポジティブ感情は平均8.15、理想のネガティブ感情は平均0.97でした。

 

研究1のまとめ

どの方法で聞いても、多くの人は「ポジティブ感情を最大にして、ネガティブ感情をゼロにする」ことを望んではいなかった、ということになります。

研究2: 理想と現実が一致している人ほど、人生満足度が高い

続いて研究チームは、研究1の参加者(18名を除外した334人)に国際サンプル304人を加えた計638人(19〜76歳、平均34.28歳、女性57%・男性41%・その他1%)を対象に、感情アライメントと幸福度の関連を分析しました。

分析では、実際に経験している感情と理想の感情の比率をもとに「アライメント指標」を計算し、完全に一致している状態(ズレがゼロ)を中心に、理想を下回っている群と上回っている群を比較しています。

 

最も重要な結果

人生満足度が最も高かったのは、ポジティブ感情が最も多い群ではなく、理想と現実が完全に一致していた群でした。理想を下回っていても、上回っていても、人生満足度は低くなる傾向が見られています。

 

ポジティブ感情との関連

経験しているポジティブ感情そのものは、人生満足度と一貫して正の関連がありました。

 

ネガティブ感情との関連

ネガティブ感情については、理想を上回っている群で強い負の関連が見られました。

 

その他の指標

「個人的成長」については、経験した感情との関連は弱く、アライメントの効果も限定的でした。「知恵」については、経験したポジティブ感情との正の関連は見られたものの、アライメントによる効果は確認されていません。

この研究の限界

研究チーム自身も、いくつかの限界を挙げています。

 

極端選択の回避傾向

研究1では、人には一般に「極端な選択肢を避ける傾向」があるため、その影響を受けている可能性がある。

 

異なる時期のデータ統合

研究2は異なる時期に集めたデータを統合しており、ベースラインの値に差がある。

 

個別感情の違い

ポジティブ感情・ネガティブ感情をひとまとめに扱っているため、個別の感情ごとの違いは見えていない。

 

因果関係

横断的なデザインのため、因果関係は判断できない。「一致させれば満足度が上がる」と証明されたわけではない。

特に重要なのは、この研究が示しているのは関連であって因果ではないという点です。「理想と現実を一致させれば人生満足度が上がる」のか、「人生満足度が高い人は理想と現実が一致しやすい」のかは、この研究だけでは区別できません。

補足: 12カ国の調査でも、上位に来たのは「内なる調和」

今回の研究とは別に、幸福そのものの捉え方を調べた研究があります。ミラノ大学のAntonella Delle Fave氏らが『Frontiers in Psychology』(2016年1月)に発表した12カ国の調査です。

アルゼンチン、ブラジル、クロアチア、ハンガリー、インド、イタリア、メキシコ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、南アフリカ、米国の30〜60歳の成人2,799人に、「あなたにとって幸福とは何ですか」と自由記述で答えてもらったところ、心理的な側面についての回答で最も多かったのは「内なる調和」(約30%)でした。

その内訳は内的平和37%、内的バランス29%、充足感23%となっています。一方、「ネガティブな感情がないこと」として幸福を説明した回答は、全体の10%未満にとどまりました。

 

【注釈】

この研究は自由記述で幸福の定義を尋ねたものであり、今回の感情アライメント研究とは対象も測定方法もまったく異なります。両者の結果を合わせて一つの結論にすることはできません。それでも、「幸福とはネガティブな感情がない状態だ」という捉え方が、幅広い国の回答者のなかでも主流ではなかったという点は、参考になりそうです。

今日から実践できる対策(提案)

ここから先は、今回の研究で直接検証された介入方法ではなく、研究結果をふまえた提案です。この研究は感情との向き合い方を実験的に検証したものではないため、あくまで日常の工夫の例としてご覧ください。

①

自分の理想の感情バランスを書き出してみる

「1日のうち、どのくらいの時間を心地よく過ごせていたら十分か」を、100%の配分で考えてみる。多くの人の平均は、ポジティブ約67%・ネガティブ約13%・中立約20%でした。

②

ネガティブな感情を「失敗」とみなさない

研究では、ネガティブ感情をまったく望まない人は12.5%にとどまりました。落ち込む日があること自体は、多くの人にとって理想の範囲内です。

③

「増やす」より「ズレを見る」

今日の自分の感情が、理想からどちらの方向にどれくらいズレているかを振り返ってみる。上振れでも下振れでも、ズレは小さいほうが満足度と結びついていました。

④

理想そのものを見直してみる

現実を変えるだけでなく、「ポジティブ感情は常に10段階中10でないといけない」といった過剰な理想を、現実的な水準に調整するという方向もあります(研究の平均的な理想は10点満点中8.15でした)。

⑤

つらさが続くときは専門家に相談する

今回の研究はあくまで一般の人を対象にした調査であり、強い落ち込みが続く場合は自己判断せず、医療機関などに相談してください。

まとめ

 

オスロ大学のJinrui Liu氏らが『Journal of Happiness Studies』(2026年6月)に発表した2つの研究では、人が理想とする感情バランスは「ポジティブ感情の最大化」ではなく、ネガティブ感情も1割程度含んだバランスであることが示されました。

 

米国在住352人を対象にした調査では、ポジティブ感情だけを理想とした人はわずか3.5%。さらに計638人を分析した研究2では、人生満足度が最も高かったのは、ポジティブ感情が最も多い群ではなく、理想と現実が一致していた群でした。

 

ただしこれは横断的な調査であり、因果関係が証明されたわけではありません。また、はっきりした結果が得られたのは主に人生満足度という指標においてで、個人的成長や知恵については限定的でした。

 

それでも、「もっとポジティブに」という発想から一歩離れて、自分にとっての理想の感情バランスを考えてみることは、日々の心の持ち方を見直すきっかけになりそうです。

 

出典・参考文献

Liu, J., Nes, R. B., Vittersø, J., Teulings, I. J. E., & Røysamb, E.「Positively Negative: Why Negative Affect is Linked to Higher Wellbeing」Journal of Happiness Studies, Volume 27, Article number 61(2026年6月、オンライン公開2026年4月28日、査読済み・オープンアクセス)DOI: 10.1007/s10902-026-01040-4

Delle Fave, A. et al.「Lay Definitions of Happiness across Nations: The Primacy of Inner Harmony and Relational Connectedness」Frontiers in Psychology(2016年1月26日、査読済み)DOI: 10.3389/fpsyg.2016.00030

※本記事は情報提供を目的としており、医師の助言や治療に代わるものではありません。

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