3分でわかる!この記事の要点
結論
猛暑は体だけでなく心にも負担をかけ、気分の落ち込みや攻撃性の高まりにつながりうる。
理由
体温調節による脳の負担、神経伝達物質の乱れ、脱水や睡眠の質低下が複合的に関わるため。
アクション
こまめな水分補給、涼しい環境の確保、服薬中の方や高齢者への声かけを心がけよう。
猛暑は「熱中症」だけの問題ではない
猛暑がもたらすのは、脱水や熱中症といった体への負担だけではありません。以前の記事「『喉が渇いた』は危険信号?熱中症予防の最新常識と対策」でも触れましたが、暑さは私たちの「心」にも大きな負担をかけています。
実際、暑さが続く時期にはメンタルヘルスの不調で救急外来を受診する人が増え、若年層の自殺リスク上昇を示すデータも報告されています。
米国心理学会誌『American Psychologist』2026年7-8月号(第81巻第5号、571〜582ページ)に掲載されたレビュー論文「Heat on the Brain: The Impacts of Rising Temperatures on Psychiatric Functioning, Potential Causes, and Related Compounding Factors」は、この関係をさらに深く掘り下げています。
著者のJoseph Taliercio氏(ワイル・コーネル医科大学/ニューヨーク長老会ブルックリンメソジスト病院、臨床心理士)は、高温がもたらす精神・認知機能への影響を整理したうえで、その背景にある生物学的・社会的・認知的な複数の要因を解説しています。
⚠️ 読む前に:この論文が引用している研究の多くは、米国を中心とした海外のデータに基づいています。住宅事情(エアコンの普及率や設定温度の習慣)、医療制度(受診のしやすさや救急医療の仕組み)、暑さへの慣れ、都市計画の歴史的経緯などが日本とは異なるため、具体的な数値や事例をそのまま日本の状況に当てはめず、「傾向」や「考え方」の参考としてご覧ください。特に米国特有の社会的背景に基づく内容には、本文中で個別に注記しています。
猛暑によるメンタルヘルスへの影響——論文が示すこと
論文によると、精神疾患の診断がない人でも、気温が21℃(華氏70度)を超えると、前向きな気分が減り、疲労感が増える傾向が確認されています。
暑い時期が続くと、うつや不安の症状が全体として増える傾向も報告されており、SNS上でもネガティブな投稿が暑い日に増えるというデータが紹介されています。気分の落ち込みはSNSを通じても広がりうるため、実際には暑さの中にいない人にも間接的に影響しうる、と論文は指摘しています。
既存の精神疾患がある人への影響は、より深刻です。
双極性障害
気温や湿度の上昇とともに入院が増える傾向があり、暑さや強い日差しによる睡眠リズムの乱れが躁エピソードの引き金になりうるとされています。
統合失調症など精神病圏の疾患
猛暑時の死亡リスクが特に高いことが示されており、住居環境や冷房へのアクセスの格差(ホームレス状態など)が背景要因として指摘されています。
※ホームレス問題の規模や社会保障の仕組みは米国と日本で大きく異なるため、日本ではエアコンのない住居で暮らす高齢者・低所得者など、別の形の格差として現れる可能性があります。
攻撃性・衝動性
気温の上昇とともに、暴力や自傷行為に関連する救急受診が増える傾向があり、「気温が高いほどリスクも高まる」直線的な関係が示唆されています。
認知機能
反応速度の低下、衝動性の増加、ワーキングメモリ(一時的に情報を保持し処理する能力)の低下が報告されています。
なぜ暑さが心に負担をかけるのか——考えられるメカニズム
論文では、複数の要因が組み合わさって心に影響すると説明されています。
まず、体温を調節すること自体が体にとって大きなエネルギー消費を伴う作業です。すでに精神疾患の症状と向き合っている人にとっては、この身体的負担が重なることで心身のバランスが崩れやすくなります。
また、暑さはセロトニンやドーパミンといった、気分や意欲に関わる神経伝達物質のバランスを乱すことも指摘されています。
さらに、熱ショックタンパク質(細胞がストレスから身を守るために作るタンパク質)の働きが暑さによって妨げられると、ストレス反応を司るホルモン系(視床下部-下垂体-副腎系)にも影響が及ぶとされています。
加えて、脱水は脳への血流や酵素の働きを妨げ、睡眠の質の低下は脳内の炎症を高めることで、心の不調につながりうると論文は述べています。
社会的・認知的な要因
暑いと単純に外出する人が増え、人と人との接触機会が増えることで衝突が起きやすくなるという見方(ルーティン・アクティビティ理論)、そして暑さで脳が疲弊すると、相手の何気ない言動を「敵意がある」と誤って受け取りやすくなるという見方(気温と攻撃性の仮説)が紹介されています。
誰が特にリスクが高いのか——脆弱性を高める要因
論文では、以下のような要因が暑さの影響を受けやすくする、とまとめられています。
高齢者
加齢に伴い体温調節や血圧管理の機能が低下しやすく、入院や死亡のリスクが最も高いとされています。
居住環境
コンクリートやアスファルトが熱を蓄えやすい都市部(ヒートアイランド現象)、緑地が少なく建物が密集した地域は気温が上がりやすく、住民が不利になりやすいとされています。
※過去に差別的な融資慣行(レッドライニング)の対象となった地域は、現在も気温が高い傾向にあることも示されています。レッドライニングは20世紀の米国で行われた差別的な住宅融資政策で、日本に同一の制度はありません。ただし「歴史的な開発の偏りが今の暑さの格差につながる」という構造自体は、日本の都市部でも参考になる視点です。
服薬中の人
抗うつ薬・抗不安薬・抗精神病薬など一部の薬は、発汗や血流の調節機能に影響するため、服用者は熱関連の緊急搬送のリスクが有意に高いとされています。
なお論文自体は、暑さによる影響の発現に時間差があることや、認知機能の測定方法が研究間で統一されていないことなど、研究上の限界にも触れています。暑さの直接的な影響と、それに伴う脱水などの間接的な影響を切り分けることの難しさも指摘されています。
今日から実践できる具体的な対策(提案)
この論文自体は、暑さが心にどう影響するかを整理したレビューであり、特定の対策の効果を直接検証したものではありません。ただし、論文で示されたメカニズムを踏まえると、次のような対策が有効と考えられます。
こまめな水分・電解質補給
喉の渇きを感じてからでは遅いこともあります。少しずつこまめに補給しましょう。
涼しい環境の確保
日中の暑い時間帯の外出を控え、冷房や日陰、扇風機などを活用しましょう。
睡眠環境を整える
寝室を涼しく保つことは、睡眠の質の低下を防ぐうえで重要です。
服薬中の方は医師に相談を
抗うつ薬や抗精神病薬などを服用中の方は、暑さへの影響について事前に医師や薬剤師に確認しておくと安心です。自己判断で服薬を中断しないようにしましょう。
周囲への目配り
高齢者や独居の方、精神疾患のある方は特にリスクが高いとされています。声をかけ、様子を確認する習慣を持ちましょう。
心のサインに気づく
「いつもよりイライラする」「集中できない」「よく眠れない」といった変化は、心が負担を感じているサインかもしれません。無理をせず休息を取りましょう。
つらい気持ちが強いときは専門家に相談を
気分の落ち込みや希死念慮が強い場合は、一人で抱え込まず、医療機関や相談窓口に連絡してください。
まとめ
猛暑は熱中症などの身体的リスクだけでなく、気分の落ち込みや攻撃性の高まり、既存の精神疾患の悪化など、心にも幅広い影響を及ぼす可能性があることが、最新のレビュー論文で整理されました。
気候変動によって猛暑が「特別な出来事」ではなくなりつつある今、体だけでなく心のケアにも目を向けることが大切です。
ただし、紹介した知見の多くは海外(主に米国)のデータに基づくものです。住宅事情や医療制度、暑さへの慣れが異なる日本では、傾向や仕組みの参考としつつ、数値をそのまま当てはめないよう留意してください。
本記事は情報提供を目的としており、医師の助言や治療に代わるものではありません。気分の落ち込みや希死念慮など、心の不調を感じる場合は、医療機関や専門の相談窓口にご相談ください。
出典
PsyPost: Extreme heat takes a severe toll on mental health
Taliercio, J. R. (2026). Heat on the Brain: The Impacts of Rising Temperatures on Psychiatric Functioning, Potential Causes, and Related Compounding Factors. American Psychologist, 81(5), 571–582. https://doi.org/10.1037/amp0001464
Dolan, E. W. (2026, July 23). Extreme heat takes a severe toll on mental health. PsyPost. https://www.psypost.org/extreme-heat-takes-a-severe-toll-on-mental-health/
前回記事:「『喉が渇いた』は危険信号?熱中症予防の最新常識と対策」 https://zeveris-wellbeing.com/heatstroke-thirst-danger-prevention
※内容は2026年7月時点の公開情報に基づきます
※効果には個人差があります
※本記事は情報提供を目的としており、医師の助言や治療に代わるものではありません。
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https://zeveris-wellbeing.com/extreme-heat-mental-health-impact