先の報酬を待てる人ほど、起業しやすく稼いでいた―英国の2万人超を追った研究

3分でわかる!この記事の要点

結論
先の報酬のために今を我慢できる人ほど、起業しやすく、起業した後の収入も高い傾向でした
理由
よい機会を探して見極め、準備や計画に手間をかけられることが関わっていると考えられています
アクション
大きな決断の前に「見極める時間」を決め、候補を比べてから動いてみましょう
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「思い立ったらすぐ行動」は本当に正解?

起業や転職、副業。チャンスが来たらすぐ動く人ほど成功する。そんなイメージはありませんか。ビジネスの世界では、スピードや決断力がよくほめられます。

ところが英国バース大学経営学部の研究チーム(行動経済学者のクリス・ドーソン教授ら)は、少し違う結果を示しました。先の報酬のために今を我慢できる、つまり「待てる」人ほど、起業しやすく、起業した後の収入も高い傾向があったのです。研究は2026年9月、起業研究の学術誌『Small Business Economics』に発表されました。

どんな研究?

英国の2万人超を、10年以上にわたって追った

研究チームが使ったのは、英国の大規模な追跡調査「Understanding Society(英国世帯縦断調査)」の2009〜2023年のデータです。毎年4万人以上が答えている、英国を代表する調査です。

対象
18〜65歳で会社などに雇われて働いていた21,543人。そのうち1,306人が、その後に自分の事業を持つ事業主になった
事業主の数え方
税金の都合で自営業扱いになっているフリーランスや下請けは含めず、自分で「事業主」と答えた人だけ
調べたこと
「待てるかどうか」と、起業したい気持ち・実際の起業・起業後の収入との関係

「待てるかどうか」を10の質問で測った

参加者は2013年に、「先の報酬のために、今の楽しみをどれだけ我慢できるか」を測る10の質問に答えています。それぞれの文が自分にどれくらい当てはまるかを、0(まったく当てはまらない)〜10(とてもよく当てはまる)で答えるものです。

  1. 特別な健康的な食事を続けるのは、自分には難しいと思う
  2. お金を賢く使おうとしている(※)
  3. 目標を達成するために、体の楽しみや快適さをあきらめたことがある(※)
  4. 自分の行動が長い目で見て人にどう影響するかを、考えるようにしている(※)
  5. 自分はお金の管理を任せられない
  6. 自分の行動が人にどう影響するかは、考えない
  7. 長期的な目標に向けて、自分をやる気にさせられない
  8. 長い目で見れば報われるので、体によい食事をずっと心がけてきた(※)
  9. 体のきつい用事があると、いつも先延ばしにしてきた
  10. 自分の努力は最後には報われると、いつも感じてきた(※)

(※)は「待てる人」ほど高くなる文なので、点数を逆にして集計します。10問の合計で0〜100点の「せっかちさ」の点数をつけ、点数が低いほど「待てる」人です。お金、食事、健康、仕事、人への配慮と、暮らしのいろいろな場面で「先のために今を我慢できるか」を見ているのが特徴です。

わかったこと

待てる人ほど、起業したいと思い、実際に起業していた

  • せっかちな人ほど、「自分で事業を始めたい」と思う割合が低い傾向でした
  • 実際に事業主になる確率は、最も待てるグループで約3.65%、最もせっかちなグループで約2.45%。待てる人の方が約1.5倍高い計算です
  • 起業した年齢は、せっかちな人の方が平均で2年半ほど若くなっていました(平均42.4歳と44.9歳)
グループ その後、事業主になる確率
最も待てるグループ 約3.65%
最もせっかちなグループ 約2.45%

起業した後の収入も、待てる人の方が高かった

起業した1,176人の収入を比べると、待てる人ほど月々の収入が高い傾向でした。雇われていた頃の収入や年齢、性別などをそろえても、せっかちさの点数が1段階(統計上の1標準偏差)低い人ほど、月の収入が約6〜10%多い計算です。参加者の月の収入の平均は約1,800ポンドで、差にすると月に約110〜180ポンドにあたります。リスクを取る傾向を考えに入れても、結果はほとんど変わりませんでした。

この差は、収入の高い事業ほど大きくなっていました。小さく続けている事業より、大きく育てる事業ほど「待てるかどうか」が結果を分けているのかもしれません。

なぜ「待てる人」が強いのか

研究チームは、理由を2つ挙げています。

1. よい機会を選べる
待てる人は、手間をかけて起業の機会を探し、見つけたものがいまひとつなら見送って、よりよい機会を待つことができます。せっかちな人は、最初に見つけた機会に飛びつきやすいと考えられます。
2. 準備と計画に手間をかけられる
事業計画を書く、需要を確かめる、情報を集める、仕入れ先や資金の相談をする。どれも今は面倒で、成果が出るのは先です。ドーソン教授は、最も成功する起業家は、機会を見極めることに時間と手間をかけ、成果が何年も先になるような早い段階の投資もいとわない傾向があるのかもしれない、と述べています。

「始める力」と「続ける力」が同じ方向だった

これまでの起業研究では、起業を始めやすくする性質が、その後の成績ではむしろ不利に働くという結果がよく報告されてきました。たとえば、リスクを取る傾向や楽観的な性格は、起業する人を増やす一方で、起業後の収入を下げることがあるとされています。

ところが「待てる力」は、起業したいと思う、実際に始める、始めた後に稼ぐ、のどの段階でもプラスの方向に働いていました。研究チームは、こうした一貫したパターンは起業研究の中でも珍しいと述べています。

「素早い決断」も大切。そのうえで

起業は素早く動いてチャンスをつかむことだと思われがちで、決断力も確かに大切です。それでも私たちの研究は、忍耐が起業家にとってまさに美徳であることを示しています。
(クリス・ドーソン教授、バース大学の発表より要約)

一方で研究チームは、待ちすぎて完璧なタイミングを探しているうちに、よい機会を逃してしまう人もいるかもしれない、とも述べています。大切なのは「動かないこと」ではなく、「見極めてから動くこと」と言えそうです。

今日から実践できること:Zeverisからの提案

研究チームは、起業支援の講座やインキュベーター(起業を支える施設や仕組み)、起業教育の場で、長い目で考える姿勢を身につける手助けをすれば、損失の大きい失敗を減らし、事業の成果を高められる可能性がある、と述べています。

研究の対象は起業でしたが、「よい機会を見極める」「情報を集め、準備に手間をかける」という考え方は、転職や副業、大きな買い物など、毎日の仕事やお金の決断にも生かせます。以下はZeverisからの提案です。

1. 決める前に「見極める期間」を決める
魅力的な話が来たら、その場で決めずに「1週間考える」など、見極める期間を先に決めましょう。期限を決めておけば、待ちすぎて機会を逃すことも防げます。
2. 候補を最低3つ並べて比べる
最初に見つけた選択肢にすぐ飛びつかず、ほかの候補も並べて比べてみましょう。比べることで、本当によい選択肢が見えてきます。
3. 情報を集め、準備を書き出す
始める前に、調べておきたいこと、必要なこと、かかるお金、相談する相手を紙に書き出してみましょう。面倒な下調べや準備ほど、後で大きな差になるかもしれません。
4. 小さく試してから広げる
いきなり大きく始めるより、週末だけ、少額だけなど、小さく試してから広げる方法もあります。確かめながら進めることも「見極める」ことの一つです。
5. 日々の小さな「待つ練習」を
衝動買いの前に一晩おく、健康によい食事を続ける、つい先延ばしにしがちな用事を片づける。研究で使われた質問にあるような、毎日の小さな選択が「待てる力」につながっているのかもしれません。

まとめ

英国の2万人超を追った研究で、先の報酬のために今を我慢できる人ほど、起業しやすく、起業した後の収入も高い傾向が見られました。研究チームは、待てる人はよい機会を見極め、情報集めや準備、先への投資に手間をかけられることが関わっていると考えています。リスクを取る傾向や楽観性と違い、「待てる力」は起業を始める段階でも、その後の段階でもプラスの方向に働いていたのが特徴です。

チャンスが来たら、すぐ飛びつく前に、少しだけ立ち止まって見極める。その小さな「待つ時間」が、仕事やお金の大きな決断を支えてくれるかもしれません。

※本記事は情報提供を目的としており、専門家の助言に代わるものではありません。

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出典

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