3分でわかる!この記事の要点
結論
脳は経験を積むと、複数の作業を同時にこなす「本物のマルチタスク」ができるようになる可能性がある。
理由
3万回超の訓練後、車の仕分け作業の処理が前頭前皮質から側頭皮質へ移り、空いた前頭前皮質で別の作業も同時にこなせるようになったため。
アクション
独立した作業同士を組み合わせ、反復練習で「体で覚える」レベルまで習熟させることが鍵。
「ながら作業」は本当にできているのか
運転しながら会話する、朝食を作りながら家族と話す。私たちが当たり前にこなしている「ながら作業」は、これまで脳が高速に切り替えているだけで、本当の意味での同時処理ではないと考えられてきました。
しかし2026年6月、米ジョージタウン大学の研究チームが学術誌『Journal of Cognitive Neuroscience』に、この常識に一石を投じる研究結果を発表しました。
参加者に特定の作業を5〜10週間・3万回以上反復してもらったところ、その作業の処理が「一度に一つのことしか処理できない前頭前皮質」から「記憶・認識を担う側頭皮質」へ移動していました。
これにより前頭前皮質に空きができ、別の作業を同時にこなせるようになるといいます。放射線科医がX線画像を瞬時に読影できるのも、同じ仕組みが関係している可能性があります。
3万回の訓練で脳の「担当部署」が引っ越しした
研究チームは参加者に、少しずつ形の異なる車の画像を2つのグループに仕分ける課題を出しました。参加者はスマートフォンのアプリを使い、5〜10週間かけてこの課題を3万回以上繰り返しました。
訓練前
「実行機能」や思考を担当する前頭前皮質という部位だけがこの作業を処理していました。前頭前皮質は、一度に一つのことしか処理できない「ボトルネック」のような部位だと考えられています。
訓練後
記憶や物の形を認識することを担当する側頭皮質という別の部位が、同じ作業を処理するようになっていました。前頭前皮質に空きができ、別の作業に使えるようになります。
訓練を積んだ作業を前頭前皮質から側頭皮質へ“引っ越し”させることで、前頭前皮質に空きができ、別の作業に使えるようになる、というのが研究チームの説明です。
実際に、車の仕分け作業がより多く側頭皮質側に移った人ほど、同時に行う別の課題の成績も良かったことが確認されました。
研究者のコメント
研究を率いたマクシミリアン・リーゼンフーバー教授は「これは本物のマルチタスクだ」と述べています。放射線科医がX線画像を見て、深く考え込まなくても瞬時に病変の良性・悪性を判断できるのも、こうした脳の再配線が関係しているかもしれない、と研究チームは指摘しています。
研究の限界と注意点
研究者は「これは本物のマルチタスクだ」と述べていますが、脳活動計測の対象は11人と小規模で、さらなる検証が必要です。また、視線を奪われるような作業の並行にはこの知見は当てはまらないとも注意しています。
今日から意識できること
今回の研究が直接検証したのは「特定の作業を大量に繰り返すと、脳内での処理場所が変わる」という点です。ここから日常生活に応用できそうなヒントを、研究で述べられている注意点も踏まえてまとめます。
反復練習を続ける
3万回以上という膨大な反復が、脳の再配線につながったと報告されています。新しいスキルを「体で覚える」レベルまで高めるには、根気強い反復が近道かもしれません。
研究で確認された内容です。新しいスキルを習得する際は、短期間で完璧を目指すのではなく、回数を重ねて脳に「染み込ませる」意識を持ちましょう。
組み合わせる作業は「別々の感覚・回路を使うもの」を選ぶ
研究者は「歩きながらガムを噛む」のように、独立した神経回路を使う作業同士なら並行しやすいと述べています。
一方で、運転中のスマホ操作のように、どちらも「視線」という同じ資源を奪い合う組み合わせは、今回の研究の対象外であり、危険であることに変わりはないと注意を促しています。
すぐに結果を求めない
今回の研究は5〜10週間という長期の訓練を経て変化が見られたものです。新しいことを習慣化する際は、短期間で「ながら作業」ができるようになることを期待しすぎず、時間をかけて取り組む心構えを持つとよいかもしれません。
まとめ
「ながら作業」は単なる脳の錯覚ではなく、経験を積むことで脳の回路そのものが変化し、実現される可能性があることが示されました。
ただし今回の脳活動計測の対象は11人と小規模であり、さらなる検証が必要です。
視線を奪われるような作業の並行はこの知見には当てはまらないと研究者自身が注意しています。安全を確保した上で、独立した作業同士の並行を意識してみましょう。
独立した作業同士を組み合わせ、反復練習で「体で覚える」レベルまで習熟させることが、本物のマルチタスクへの近道かもしれません。
出典
Georgetown University School of Medicine(2026年6月4日)Georgetown Researchers Show How Brain Rewires Itself to Enable True Multitasking
ScienceAlert(2026年7月28日)Your Brain Really Can Learn To Multitask, And Scientists Just Revealed How
Cox et al., Journal of Cognitive Neuroscience(2026)Extensive Experience Remodels Neural Task Representations
※内容は2026年8月時点の公開情報に基づきます
※効果には個人差があります
※本記事は情報提供を目的としており、医師の助言や治療に代わるものではありません。
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